VOICE
vol.4 EDITORS IMPRESSION 
Begin編集部員が語る「続・ピレネックスの現地取材の裏舞台」

Vol.2に続き、ピレネー本社工場まで取材を行った男性モノファッション誌『Begin』編集部員である市川氏にさらなるピレネックスの魅力を語ってもらいました。

世界で一番美味しいダウン

雑誌の校了が終わるころ、外はなかなかいい時間。
お店が続々閉まるなか、小腹を満たすは朝までやってる『富士そば』です。
目当ては東海林さだお氏も愛する名作「コロッケそば」。
つゆに浸したコロッケを、缶ビール片手に頬張れば、まさに口福なひと時を過ごせます。

「挽きたて、打ちたて、茹でたて」
諸説ありますが、この「三“たて”」が美味しいそばには不可欠だそうですね。
フランスでピレネックスのファクトリー取材を行った際、ダウンにもこの「三“たて”」があると気づきました。

「採れたて、洗いたて、詰めたて」
これぞピレネックスのダウンが世界で一番美味しい由縁。
VOICE Vol.2で取材したダック牧場の直近に本社工場があるため、非常に早いスピードで羽根からダウンへの加工を実現しているのです。
その加工速度は原則24時間以内!
アマゾンプライムといい勝負です。
モチロン、ここまで徹底するには大事な理由があります。

ダックから採取したばかりの羽根は、いわばナマモノ。
素早く洗浄・殺菌しなければ腐敗がドンドン進み、本来の性能を発揮しないばかりか臭いの原因にもなるそうです。

工場を案内してくれたピレネックスのディレクターであるエリックさんは自信を持って話します。

「ピレネックスが重要視するのは“絶対鮮度”。いくら上質な原毛でも、時間を経れば繊維が壊れていきます。その点、羽毛産地のド真ん中に位置する当社はフレッシュな状態で洗浄と選別が可能。保湿力、復元力、ともに最高のダウンです。世界広しといえど、この鮮度はウチだけですよ!」

この鮮度こそがダウンの美味しいレシピだったのです。

最高の最高の最高の・・・ダウン

1859年。日本は「安政の大獄」のさなかであり、『西郷どん』でいえば渡辺謙さん演ずる島津斉彬が亡くなる16話のころ、ピレネックスが寝具用のダウンを加工する工房としてスタートしました。
つまり、150年以上もダウンを取り扱ってきた老舗中の老舗だということ。
加工技術にも絶対の自信があるはずです。

原毛が工場に届くとまずは徹底的な洗浄。羽根に付着した脂と汚れを洗い流します。
かつては1日に100万ℓの蒸留水を使用していたらしいのですが、現在は浄水設備が整いエコ化に貢献。
当時の半分で済むそうです。

ここで注目したのが汚れを落ちていることを確認するテスト。
長さ1mもあるだろうメスシリンダーに洗浄した羽毛を落とし、水が濁らないか透明度を確認するというもの。
実際に見せてもらったのですが、もはや飲めるんじゃないかと思うぐらいの透明度でした。
洗浄後のダウンは専用の乾燥機にて100℃で消毒。原毛を完全消毒。
ここまでいったら完成と思いきや、工場のなかでもひときわ大きい木製の機械にダウンが運ばれてきます。

これぞピレネックス社が何十年も信頼して使い続けている特製のダウン選別機。
ダウンをエアで吹き飛ばし、遠くまで飛んでいく軽くて細かな羽毛を仕分けするためのものです。

エアで吹き飛ばされたダウンは箱のなかで舞い上がり、仕分けによってグレードが細かく決まっていきます。
イメージするなら25mプールをどこまで息継ぎなしで泳げるか。それを5mごとに成績をつけるといったところでしょうか。

実際に仕分けが行われるボックスをグレードごとに小窓から覗かせてもらいました。
箱の内部では送風されていますので、常時羽毛が舞い上がっている状態です。

最初は羽毛が飛んでいると肉眼ではっきりと認識できましたが、グレードが上がるにつれて羽毛がまるで雪のように変化をしていき、最高級の箱の内部はさながら粉雪! その感動に、ねえ、心まで白く染められそうです。
驚くことにピレネックスが自社のダウンウェアに採用される羽毛は、なんとこの仕分け工程の最高グレードのみだそうです。

「布団や寝袋といった寝具なんかだと適度な重量も必要だから他のグレードも採用するけど、ピレネックスがウェアで採用するダウンは最高クラスのものだけです。
このレベルになると、もはやダウンが生きているように舞っているでしょ。これがピレネックスの軽さと温かさのヒミツなんだ。」
と、先ほどのエリックさん。

最高の鮮度をもつ羽毛が、最高の加工を経て、さらに仕分けに仕分けが重ねられる。
ピレネックスの伝説は、そんな圧倒的な品質で支えられているのだと取材を通じて感じました。
それから冬場はピレネックスのダウンをずっと“ソバ”に置いてあり、寒いときに着ては幸“服”なひと時を過ごしています。

では、お後がよろしいようで(笑)。

Begin編集部 市川 聡さん
2009年世界文化社入社。こだわる男のモノ&ファッション誌『Begin』の編集を担当。服、靴、時計、小物、雑貨、自動車など担当は多岐に渡る。
近ごろはオールドセイコーを収集しているのだとか。