男性モノファッション誌『Begin』でもたびたび取り上げられるピレネックス。
実際にフランスまで取材に行ったBegin編集部・市川氏に、現地で見たピレネックスの魅力を語ってもらいました。
最後の大モノ本モノダウン
「ピレネックス」という名前を初めて聞いたのは、もう10年近く前でしょうか。
当時、「アンリ・ラプロー」という‘80年代の名作ダウンブランドが同社の手によって復活。『Begin』の誌面上でも何度か記事にしていたのを覚えています。
曰く「フレンチダウンの最高峰」、曰く「ユーロダウンの最古参」、曰く「ド級ダウンブランドのOEM担当」・・・。
などなど、その強烈な列伝は枚挙にいとまがありません。が、ピレネックス社自体の詳細は誰も知らぬ存ぜぬで、ある種の神秘的な存在でした。
そうこうしているうちに、日本ではさまざまなダウンブランドが登場して隆盛を極めましたが、真打たるピレネックス社のオリジナルダウンは目にすることは無かったのです。
それが昨年、「ピレネックス社によるピレネックスブランド」が本格上陸ということで、フランス・ピレネー本社から取材許可がおりました。
そんな伝説的なダウンブランドの本社ですから、なんだか分からないけどスゴい秘密がある!のだろうと、高揚したことを覚えています。
ピレネックスを着ること=フランス文化を着るということ
『Begin』はアイコニックな芸能人や有名モデルを起用する他のファッション誌と異なり、服、靴、時計といったモノが主人公の雑誌です。
故に、モノ作りの根本に関わる工場取材や職人取材に力を入れています。私自身、編集担当として各地に取材に伺いますが、ピレネックスの場合は特に印象に残りました。
なんていったって牧場(!?)取材ですから。
ピレネックスの本社はフランス南西部「ポー」という都市から、車で数時間走ったところにある「サン・セべ」という町にあります。
早速、ダウンの加工工程を見に工場へ……と、思いきや、案内されたのはピレネックスが契約をしているという牧場!
なんでも、ピレネックスの魅力を知るには、先ずは牧場に行くのが早いとのこと。東京ドーム数個分はあるであろう広大な敷地面積です。
なかに入ると、お馬さんがいきなりお出迎え。都内ではもっぱら大井町でしか見ていないので新鮮でした。
移動専用のビークルに乗り換え、牧場内を進むこと数十分。
そこには、丸々としたダックが何百羽と広大な土地に放し飼いをされていました。
なぜ、こんなにダックが? そのヒミツは先に取り上げた、この「サン・セべ」という町。
じつは、フランス屈指のフォアグラ(ダックの肝臓の加工料理)の名産地でもあるのです。
牧場主であるベルナールさんは、
「よその国では食肉加工用に育ったらすぐに出荷をしてしまうけど、フランスでは敬意を払って自然の環境下でゆっくり成鳥になるまで育てるんだ。だから、羽毛も発育がよく他にはないダウンを作ることができるんだよ」と僕らに教えながら、柵のなかから一羽、連れてきてくれました。
「ほら、大きくて羽毛がフワフワしているだろう。化学飼料を一切使わない、自然のままの環境だから、こう育つんだ」
ダックといったら「北京」程度の知識がない自分には、正直、その差が感じ取れませんでしたが、印象に残ったのは元気の良さです。とにかく動くし、なんだかデカイ(笑)。
ピレネー山脈の麓という厳しい気象条件で育ったダックは伊達じゃありません。
取材後、自宅に招かれ自慢のフォアグラを振舞っていただきました。
「フォアグラはフランスの伝統文化。祝い事や行事に欠かせないものなんだ。だから、ダックを大事に育てるし、文化の担い手という誇りを持って仕事をしている。結果として、生まれるダウンも最高のものという自負があるね」
こうしたフランス文化との密接な結びつきこそが、他国生産のダウンと一線を画しているんですね。
つまりはピレネックスのダウンを着ることは、いわばフランス伝統文化を肌身を持って感じることなんだと、フォアグラをムシャムシャ食べながら思ったわけです。
ちなみに、このフォアグラはとっても濃厚。「サン・セべ」の人たちは、甘みの強い地元のワインとマリアージュさせるとのことです。
Begin編集部 市川 聡さん
2009年世界文化社入社。こだわる男のモノ&ファッション誌『Begin』の編集を担当。服、靴、時計、小物、雑貨、自動車など担当は多岐に渡る。
近ごろはオールドセイコーを収集しているのだとか。