フランスのピレネーの麓、サン・セベの町で生まれた「PYRENEX」。そのはじまりは、命を余すことなく生かそうとする、暮らしの知恵から。そんな自然と街をあたたかくむすぶフランスの暮らしを覗こうと、トラベルカルチャー誌「TRANSIT」がPYRENEXと一緒に、フランスを巡った。
第二回は、グルノーブルで家具職人をしているニコラ・パビオン。パリ、東京、京都と、各地で建築を学び、故郷の山のある風景へとたどり着いたニコラ。彼の山の麓の街の暮らしを見せてもらった。
自然に囲まれ、自分に合った速度で暮らす。
フランス南東部、アルプスの山々に囲まれたグルノーブル。ヴェルコール、シャルトルーズ、ベルドンヌ、3つの山塊に抱かれ、「アルプスの首都」とも呼ばれる街だ。冬になればスキーへ、夏はハイキングや自転車、クライミングへ。ここでは山は眺めるだけのものではなく、暮らしのすぐそばにある。街から少し足を延ばせば、いつでも大自然のなかへ飛び込める。
そんなグルノーブルで、建築や内装、家具、木工作品を手がけているのがニコラ・パビオンだ。建築を学び、家具職人としての技術も身につけたニコラは、木材を中心に、オーダー家具から小さな作品まで自らの手でつくる。効率よく数をこなすというより、一つひとつの素材と向き合い、納得できるところまで手をかける。
ときには、時間をかけすぎてしまうこともある。それでもニコラは、「ものをつくること」と「暮らすこと」をきれいに切り離そうとはしない。山を眺め、手を動かし、気が向けば外へ出る。自分に合った速度で暮らすこと。そこに、彼のものづくりの原点があるのかもしれない。
古い農家を、ひとつの作品に。
ニコラが妻と暮らすのは、グルノーブル近郊に残る古い農家。1870年頃と1920年頃に建てられた建物を購入し、いま、自分たちの手で少しずつ改修している。周囲には新しい住宅が並ぶなか、ここだけ時間が止まったようだ。剥がしかけの壁には長い年月の跡が残り、古い木材にも独特の表情がある。
「家も、自分の作品のひとつにしたいんです」
完成を急ぐ様子はない。使えるものは残し、必要なところには手を入れる。家具も、空間に合わせて自分で考え、つくるつもりだという。
彼のものづくりにも、どこか同じ姿勢がある。依頼を受ければ、相手が求めるものを考え、素材を選び、丁寧につくる。ただ、こだわり始めれば、どうしても時間はかかる。
「仕事として成立させることと、自分が納得できるものをつくること。そのちょうどいいバランスを、いまも探しています」
庭で野菜を育てたり、偶然手に入れた木材から小さな器をつくってみたり。廃車になった車のパーツが作品になることもある。あるときは、遊びに出かけた湖で泥をすくい上げ、「これで陶器をつくってみよう」と思い立つことも。暮らしのなかで出会ったものに、自分の手でもう一度、新しいかたちを与える。この古い家もまた、そんなニコラのものづくりの途中にある。
東京、京都、パリ。そして山の街へ。
ニコラのものづくりを語るうえで、日本との関わりは欠かせない。
建築を学んだ彼は東京へ渡り、トラフ建築設計事務所、石上純也建築設計事務所で働いた。その後は京都へ移り、フランス人デザインデュオの2m26のもとで、木を使った展示空間の制作などにも携わった。
日本の建築が好きだというニコラにとって、東京や京都で過ごした時間は、建築を見る目だけでなく、素材との向き合い方にも影響を与えたのだろう。その後、パリの建築事務所でも経験を積んだ。けれど最終的に戻ってきたのは、生まれ故郷のグルノーブルだった。
「パリも好きだけど、自分が暮らす場所ではないと思ったんです。家族や友人の近くで、もっと自然を身近に感じながら暮らしたかった」
都会で得られる刺激も知っている。それでもニコラが選んだのは、窓の向こうに山があり、思い立てば湖へ行き、友人たちと山へ出かけられる日常だった。
何東京や京都、ベルリン、パリ。いくつもの都市で暮らしたからこそ、自分にとって本当に必要なものが見えてきたのだという。
何かを手に入れるために忙しく生きるのではなく、好きな仕事をし、好きな人たちの近くで、自分の時間を持つ。
そんな肩肘張らない生き方が、この山の街にはよく似合う。
街にも、山にも。暮らしに寄り添う一着。
冬はスキー、夏は登山やハイキング。グルノーブルでは、街と山の境界が驚くほど近い。
ニコラにとっても、自然はわざわざ出かけていく特別な場所ではなく、日常の延長にある。仕事を終えれば山や湖へ。庭で四季を感じながら過ごし、古い家や木材に手を入れて暮らしている。
そんな日々には、街でも山のそばでも気負わず着られるピレネックスの服がよく似合う。
ニコラが着用している「グラーヴ」は、クラシックなステンカラーコートをベースにしたダウンジャケット。すっきりとした佇まいながら、天然ダウンならではの暖かさを備え、冬の寒さが厳しいグルノーブルでも心強い一着だ。
「いかにもアウトドアという感じじゃないのがいいですね。街では普通のコートのように着られるのに、ちゃんと暖かい。この街に合っていると思います」
1859年、フランス南西部のサン・セヴェで始まったピレネックス。地域の農業から生まれる羽毛を捨てることなく集め、洗い、選別し、価値ある素材へと変えてきた。その根底には、すでにあるものを生かし、長く使うという土地の知恵がある。
古い農家を壊さず、自分たちの手で少しずつ直していく。偶然出会った木材を作品に変え、役目を終えた車のパーツにも新しいかたちを与える。
ニコラの日々にも、どこか同じ感覚が流れている。
新しいものを次々と手に入れるのではなく、そこにあるものを見つめ、手を加え、自分の暮らしになじませていく。街と山のあいだで、自分に必要なものを選びながら暮らす。彼の日常には、そんな静かな豊かさがある。
PYRENEX Pick up Item
GRAVES(グラーヴ)
ステンカラーコートのデザインをベースにしたダウンコートの「GRAVES」。スーツの上からはもちろん、Tシャツの上に羽織っても大人な雰囲気に、オンオフ問わず着用できる。スーツの上から着てもストレスを感じないように肩回りや袖のパターンは立体的に裁断・縫製されている。襟裏にはチンストラップがあり、コートらしく襟を立たせて首元の暖かさも保ってくれる。



