釣りもランも登山も、 移りゆく景色を楽しむ旅の過程
- 公私ともに旅をするスタイリスト金子夏子さんがナビゲートするインタビューシリーズ第三回は、アウトドアアクティビティをモチーフとしたアートワークを数多く手がけるアートディレクター/イラストレーターのジェリー鵜飼さん。プライベートでもトレイルランニングや釣り、登山などアウトドアアクティビティを愉しむジェリーさんに、ライフステージとともに変化する旅のかたちについてお話をうかがいました。デスティネーション(目的地)がすべてではない旅の魅力とは ── 。
- 金子夏子(以下、NK)_ 登山や釣りなど、旅とフィールドでの活動に長い時間、身を置いていますよね。いまはかなりの頻度で走っていると思うのですが、走ることと旅が直結しているような感じですか?
- ジェリー鵜飼(以下、JU)_ まさにそんな感じですね。長い距離を走るのが好きだから、走っていること自体が旅っぽい感じがあるんですよね。地図を何回も見て、ここまで行けるかもとか。登山で縦走するときに、日帰りだとここまでしか行けないけど、テントを使えばこの山とこの山が繋げられるみたいな。走るのも同じ感覚。
- NK_ そうか、走るのも旅なのか。
- JU_ この前、家から青梅まで走ってきたの。
- NK_ 距離はどれくらいですか?
- JU_ 奥多摩の入口まで行って、往復で80キロ(笑)。家から走ってこられるんだって。
- NK_ 人それぞれ旅の仕方って違いますよね。旅の過程が好きな人もいれば、長く旅をすることが好きな人もいて、ちょこちょこいろんなところに行くのが好きという人もいる。
“走ることも旅”。始めにすごくいい言葉をもらってしまって、これ以上なにを聞こうかなって困ってます(笑)。
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JU_ 最初はダイエット目的でずっとジョギングをしていたんです。途中で歩いたらダメとか、家から出たら走って汗かいて帰って来ないとと思っていたんだけど、だんだん変わってきています。
途中でコンビニにも寄るし、パン屋さんにも入る。そういうのもありにしてるんだよね。そうじゃないと、長い時間は無理だから。80キロを走っているときも、ひたすら多摩川沿いを進むんだけど、気持ちいいところにベンチが置いてあるの。ベンチをつくる人って、どこに置いたらいいか分かっている(笑)。しかも木があって、日陰になっていて、座るとすごく景色がよかったりして。そういうところで休憩しながら、たまにスマホでコンビニを探してアイス食べたり。
昨年、友だちのペーサーで100マイルレースの一部分だけ走ったんだけど、昔から自分の周りにトレイルランニングをやっている友だちが大勢いる。トレランをやっている人って当たり前なんだけど、心が元気。もちろんレースでダメになって潰れてしまうときもあるけど、基本的にみんな心が強い。
- NK_ 確かに、ポジティブな人は多いですよね。
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JU_ コロナ禍にSNSとか見ていて日本って案外居心地がよくないなと感じたけど、トレランをやってる人たちの投稿だけは山のてっぺんで汗だくだけどものすごい笑顔の写真ばっか上がってて、世の中こんな感じで塞ぎ込んでるのにトレランの人たちってすごいってなった。
ぼくのなかでは登山ってもうちょっと文化的というか暗いというか。ぼく自身がすごく根暗で、ひとりでつまらないことを考えながら山の中を歩いているから、いまからでも自分もこういう人種になれるんだったらやるべきだなと。
50歳を過ぎて本格的にランニングを始めて、レースに出たらやっぱり楽しかった。今まで走るのは楽しいけどレースは嫌いだったけど、周りに「レースはいいよ」って言われて出たら本当によかった。
- NK_ ずっと走っていると出たくなかったレースに出たくなってみたり、心がちょっと元気になったり、長い旅の過程みたいな感じなんですか?
- JU_ 人生も旅だとしたら、そうですね。どんどん景色が変わっていく。家の近所を5キロ走るのもやっとだった人間が80キロも走れるようになると、コースの選択肢が増えてきますもんね。
- NK_ わたしもスキーにハマって、スキルを上げていけば滑れる斜面も増えるし、景色もどんどん変わっていく、それはすごくおもしろい。山スキーをやるようになったら、普段は見られない景色、しかも登山とは全然違ってそれもすごい楽しくてハマっていきました。
- 大人になってから始めたから、もちろん若いときみたいに、すごく技術がアップしないかもしれないけど、でもまだやれることが多くて、ジェリーさんにとってのトレランが自分にとってはスキーなのかもしれないです。もちろん山登りは楽しいけど、それとはまた違った自分がなにかをやることで次が見えてくる感じがすごく好きです。
ライフステージで変わる旅のかたち
- NK_ 若いときといまとで、旅のスタイルは変わっていますか?
- JU_ 何段階か変化しています。若いときは海外に行かなきゃいけないみたいな時期があって、ぼくは米国が好きだから何回も行っていました。米国の街を歩いているだけで幸せだった。
- NK_ 米国が第1期の旅って感じですね。
- JU_ そうですね。
- NK_ その後、お子さんが生まれてからは、どうですか? 海外には行っていましたか?
- JU_ 仕事のときだけです。米国に行っていたときは、ひとりとか友だちと行っていたけど、今度は家族の旅という感じになってきました。
- NK_ 家族旅行ってどこに行くことが多いですか?
- JU_ セカンドハウスがないときから八ヶ岳には遊びに行っていました。北海道までクルマで行って、妻と子どもは旅館とかホテルに泊まり、ぼくだけ犬と一緒にクルマで寝泊まりもしましたね。
- NK_ それも楽しそう。
- JU_ クルマの中に釣り道具が一式入っているから、スマホの地図で川がどこにあるかとか、コンビニを調べて遊漁券を買ったりしましたけど、あんま釣れなかったなぁ。
- NK_ でも、その過程も楽しいですよね。セカンドハウスがある八ヶ岳には、定期的に?
- JU_ こっちで週末に予定がなければ、毎週末、冬も夏も。
- NK_ いまはいろんなところに行くというよりは、走る旅と八ヶ岳ですか?
- JU_ ついこの間、愛犬がなくなったんですよ。悲しい反面、いままでやれなかったことができるというのもあって、これからまた旅のかたちはだいぶ変わってくると思います。
- NK_ お子さんも大きくなってるから、違うところにも行ける機会も増えるかもしれないですよね。
帰る日を決めない旅
- JU_ いまいちばんやってみたい旅って、帰る日を決めないことなんですよね。そういうことをやってる友だちがいて、「まだ遊んでるの?」ってくらい、帰る日が決まっていない。うらやましいですよね。いい加減飽きたから、一回家に帰るかって感じで旅しています。
- NK_ 次の旅の目標はそれですか? 帰る日を決めない。
- JU_ そう。釣竿と走る道具とか、あとサクッと登山の道具がクルマに入っていたら完璧じゃないですか。
- NK_ 好きなところに移動して、今日はこっちかな、今日あっちに行こうかなってなりますよね。
- JU_ 川があるところは当然山もあるから、山も遊べるし川も釣りしながらどんどん登り詰めていけば稜線に出るから。
- NK_ 確かに、確かに。
- JU_ 登山道って大正時代くらいまでは全部沢筋なんですよ。昭和になって登山道として整備されているけど、深田久弥とかが登っていたころは沢を登ってたから、いわゆるクラシックルートといわれていて、いまもちゃんと巻き道とかが残っているんですよ。
- NK_ ありますよね。復活させているところとかもありますよね。
第1期米国、第2期の家族旅行、トレランがあって、次が第4期ですね。
- JU_ 子どもとも一緒に行きたいんですよ。だんだん岩登りも上手になってきて、彼女がいつまで続けたいかはわからないけど。ぼくが見る限りやっぱり女性のほうが、リードクライミングにハマる率が高くて、LOCK BOKUで一回やらせたら結構楽しそうだったから、いつか自分と2人でマルチピッチで登れたらって。ただ、ぼくはからだが硬いし、たぶん無理だと思うけど、でもビレイぐらいは付き合えたら幸せだよなぁ。
- NK_ いいですね。
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JU_ これからやりたい旅が本当にいろいろありすぎて、もう少しまとめないと。みんなに誘われるんですよ。「こういうの行こうよ」って。それがあまりにもおもしろそうすぎて、帰ってこれなくなったら嫌だなと思って。釣りが好きな人の計画とか聞いてると本当に、頭おかしいんじゃないのっていうくらいおもしろいの(笑)。
「ジェリー、来年の夏は一緒に北海道行こうよ。とりあえず10日間ぐらい空けておいて」って。普通は、10日も空けられない(笑)。でも、10日くらいあったら十分楽しめるからさ、みたいなノリでね。
- NK_ ひとまず10日、いやもうちょっとあってもいいかなぐらいの感覚ですよね。山スキーをやる人もそれに近い感覚かもしれない。
- JU_ 確かに。
まだ見ぬ日本の景色を求めて
- NK_ その第4期の、帰る日にちを決めなくていい旅が実現できたら、どこに行きたいっていうのはあります?
- JU_ まずね、ぼくは実は日本をあまり旅行したことがなくて、行ったことない場所がまだ何カ所もあって、山形とか秋田とか、降りたことはあるんだけど、全然よく分かってなくてそこらへんで釣りもすごくいいよって聞くし、山も登ったことないし、そこは行ってみたい。
- NK_ 山もやっぱりいい。秋田駒ヶ岳とかいいですよね。山道もあるけど、一本違う方から入れる道があったり、山小屋も多くないからのんびりしていて、繋げようと思えば結構ロングルートで続けられるし。
- NK_ 今回、ダウンジャケットを選んでいただきましたが、3着で迷われていましたよね。選んだポイントは、どのあたりですか?
- JU_ この〈TROYES〉のコンチョみたいなボタンのデザインと少しアウトドアっぽい感じがよかったかな。最初は、これではないかもと思っていたけど、袖を通したらすごくよかった。
- NK_ 普段、ダウンって着ますか?
- JU_ 着ますよ。普段、山に行くときは、雨で濡れることもあるから、厳密にはダウンではなくてプリマロフト(化繊)だけど、〈TROYES〉は廻り目平にボルダリングしに行くときにちょうどよさそう。こういうのが、いちばんいいですよ。私服とか普通の格好でもいいし、山に行くとかアクティビティのときにもいいし。でもね、ぼくはすぐ汚しちゃうんですよ。いいものでも(笑)



