SPECIAL

スタイリスト金子夏子さん連載企画 Vol.1

移動するために、旅するために、アンテナを張り続ける

旅 ── 。それは、PYRENEXというブランドの起源を語るうえで欠かすことができないテーマのひとつです。そして、そのマインドはいまもプロダクト一つひとつに息づいています。旅のスタイルは十人十色。人の数だけ個性豊かな旅のスタイルを公私ともに旅をするスタイリスト金子夏子さんがナビゲーターとなり、紐解いていくインタビューシリーズがスタートします。第一回は、プロローグとして、金子さんに旅のスタイルをうかがいました。

金子夏子|Natsuko Kaneko
スタイリスト。女性モード誌、カタログ、広告などで活躍。休日は登山やロッククライミング、バックカントリースキーなど、四季を通じて山に出かけており、アウトドアアイテムを生かしたスタイリングに定評がある。SUPをはじめとした、海や川でのアクティビティにも挑戦中。

自然への旅、都市への旅

— 普段は、どれくらいの頻度で旅していますか。
金子夏子(以下、NK)_ 登山やスキーのようなアクティビティも旅に含めるなら……、冬は月2回くらいのペースで雪山に行くので、年間で20回以上は旅に出ていると思います。わたしにとって旅とアクティビティは一緒なんですよね。
— 思いついてパッと旅に出るんですか。
NK_ 仕事の兼ね合いもあって何日間も休むのはなかなか難しいから、計画します。ただ、それは日程くらいで、旅先で何をするかとかはそこまで深くは考えないです。
— どんなときに旅に行きたくなりますか。
NK_ わたしにとって、旅は日常みたいなものなので、常に旅には行きたいです(笑)。旅から帰ってくるときには、「次はどこ行こうかな」って考えています。割合としては都市を旅するよりも、アクティビティをするための旅が多くなっていますね。必然的に普段暮らしている街から違う街に行くから、それも楽しいです。でも、ずっとそれを続けてると、急にパリに行きたいとか、都市の旅も恋しくなります。
— アクティビティでの旅と都市の旅。装いは変わりますか。
NK_ アクティビティで旅するときは、自ずとそっちがベースになりますね。都市の場合は、ファッションウィークのために行くとき以外は、その旅行のために何か特別な服を着るということはないです。東京にいるときの格好と変わらないです。アクティビティもファッションも、どちらもすごく好きなことなので、どちらかだけに比重を置くというよりは、どっちも大切したいです。

金子夏さんの旅の必需品
「キャップは日差し避けとして重宝するし、ヘアスタイルも気にしなくていいので、常に2つくらいは持参します。日本人の頭の形に合うものがないので、『これは!』というものに出合ったら旅先でも買います。街でのキャップ探しも旅の楽しみです。サングラスも日差し避け。これは街用です。わたしの旅のスタイルは街でもアウトドアでも「よく歩き、よく動く」。だからリラックスグッズは必ず持っていきます。CBDバームは寝る前に塗っておくと翌朝スッキリします。あと自分の好きなオイル。ホテルのシーツや枕カバーに垂らしたり、コップにお湯を入れて1滴落とすとルームフレグランスになります。あとは疲れたときに手首や首筋に塗るとリラックスできます。日中は活動的なので、夜はなるべくリラックスできるようにしています」

移ろう景色に旅を感じる

— 最近の旅の思い出はありますか。
NK_ 友人に会いにオランダに行きました。友人はライデンという地方都市に住んでいて、のどかですごくいい街でした。自転車の街で、みんなが自転車に乗っていたので、わたしも友人の自転車で近くをブラブラしました。もう少し長く滞在したかったです。

ライデンにはパリから列車で移動したのですが、列車旅も結構いいなと感じました。列車で移動するって、景色を見たり、もの思いに耽ったり、そういうちょっとした時間があるから、海外での列車旅は好きですね。

— いいですね。人を見ているだけでも楽しめますよね。
NK_ そう。人を見ていても楽しい。思い返すと、山に登るためにクルマで長野に行くときとかも、街から山のほうに向かって景色がどんどん変わっていく。それを見ているのも好きです。いま話していて、そういう移動時間がすごく好きなのかもしれないと気づきました。
— 旅先での習慣にしていることはありますか。
NK_ 本屋さんに行くのが好きです。そこの国の本屋さんに行って、写真集や、読めもしないのに地図とかガイドブックを、旅の思い出を兼ねて買うようにしています。紙のテイストとかが、日本とは違うじゃないですか。装丁もかわいいんですよね。向こうのガイドブックって、たぶん親切丁寧ではないんだろうけど、かわいくてつい買ってしまいます。
— ジョン・ミューア・トレイル(JMT)* の地図ですね。歩いたことはありますか。
NK_ JMTはまだないです。 すごく歩きたいけど、いまはアラスカか北欧のトレイルを歩いてみたい。でも、ニュージーランドに住んでいる友人からは、「こっちのトレイルはすごいから、絶対に来たほうがいいよ!」って言われていて……(笑)。

* ジョン・ミューア・トレイル|John Muir Trail
米国カリフォルニア州のシエラネバダ山脈を南北に縦断する全長約340kmのロングトレイル。略称はJMT。ヨセミテ渓谷からマウント・ホイットニーまでを結ぶ、ハイカー憧れの地。その名は「自然保護の父」と呼ばれるジョン・ミューアにちなんで名付けられた。

— 次の旅先が渋滞を起こしていますね(笑)。ロングトレイルはお好きですか。
NK_ ネパールのルクラとエベレストベースキャンプをつなぐ、エベレスト街道を歩いたことがあります。標高が高いので、何日間か歩いて街で数日停滞して高所順応をする。そして、また歩き出す。それを繰り返しながら歩く感じですね。

ずっと歩いていくと町々があって、そこに泊まったりして。街道には山登りに挑戦する人、行けるとこまで街道を進んで帰ってくる人など、さまざまな人たちが歩いています。若いバックパッカーもいれば、結構年配の方もいます。話を聞くと、どこまで行くかは決めずに自分の体力で行けるところまで行くと言っていました。景色がすごくいいから、全行程を達成するだけではなくて、自分の体力に合わせて楽しむのもいいなと思いました。

— それも移動ですね。
NK_ 確かに。普通に山登りだと山頂に登って下りてくるのが目的になるじゃないですか。でも、エベレスト街道は、一日中ひたすら歩くんですよ。毎日朝から6〜7時間。でも、それが心地よくなってくるんです。「景色、いいな」みたいなことを考えながら、歩き続ける。しかも、それが1日や2日ではなく、2週間以上。それが、だんだん気持ちよくなってしまうんです。ロングトレイルを歩くのは、もう1回ぐらいはやってみたいと思っています。
— それがアラスカなのか、北欧なのか、ニュージーランドなのか(笑)。
NK_ そうなんですよね……。
— ところで、金子さんにとっての旅を表すキーワードってなんでしょうか。
NK_ 昔は「旅に行くぞ!」みたいな感じでしたが、いまは日常と旅が一直線上にあるというか、つながっているような気がしています。もちろん、旅が特別なことに変わりはありませんが、いまのところ移動することも好きだから、旅は「日常」なのかもしれないです。
— 旅を日常と思うきっかけは、何かあったのでしょうか。
NK_ 自然とですね。ただ、旅の仕方が変わってきたことがあるかもしれないです。 以前はこの街にどうしても行きたい、これを見たい、あそこで買い物がしたいというのがありました。いまは、この美術館行きたいとか大まかなイメージはあるけど、今日は予定を変更して日がな一日カフェでのんびりするとか、旅だからという感じがあまりなくなったのかもしれないですね。だから、“日常”と感じているのかもしれないです。
— 急にはそういう旅のスタイルは生まれないですよね。ファッションウィークにも長く行かれていましたよね。
NK_ 多いときで年2回、その後も年1回は行っていました。それを20年ぐらい続けていました。結構な回数ですね。おかげで普通では見られないショーを体験できたのは、この仕事をやり続けていたからこそだと思います。

何事も長く続けてこられたのがよかったのでしょうね。それらがすべて自分の中の経験になっています。いまみたいにSNSとかでかんたんにコレクションの映像が見られなかったから、行かないとわからないことばかりだし、見られたとしてもだいぶ時間差がありました。それを実際に自分の眼でライブで見られたのは本当にいい経験ができたと感じています。山も、行かないと経験できないことですよね。何かに対して長く続けることが、自分の好きなスタイルなのかもしれないです。

— 旅の行き先は、どのようにして決めているのでしょうか
NK_ どちらかというと直感型かもしれないです。「今シーズンはここに行こうかな」となんとなく思い浮かべていると、不思議とお誘いがあるんです(笑)。あとはタイミングですね。

エベレスト街道を歩いたときも、周りで何人か行っている人はいたけど、「まったく未知の世界だしな、でも行ってみたいな、でもな、こんなとこなかなか自分だけじゃいけないよな」って思っていたら、急に呼ばれるタイミングがあったんです。そういうときに動ける人でいようとは、心がけています。チャンスが巡ってきたときに、「行きます!」と言える態勢ではありたいと思います。もちろん、今回はちょっと違うかもというときもあります。でも、旅でも仕事でも何でもそうですが、その直観だけは失わないようにアンテナを張っていようと思っています。

— 今回、旅をテーマにPYRENEXのダウンジャケットを一着選んでいただきましたが、かなり悩まれていましたね。
NK_ (笑)。2着までは絞れたのですが、最後はキルティングっぽいのは自分の中で好きなタイプなので、間違いなく日常で着られそうで最後まで悩みました。
— 選ぶときに想像した旅先はありますか。
NK_ 札幌の街ですね。よく雪山の帰りにスキー仲間とおいしいものを食べに散策したりするので、そのときを想像しました。実際、アウトドアなダウンジャケットは持っているので、敢えて都市でも着られる〈BARRY〉を選びました。とてもアーバンなダウンジャケットに感じました。あと、冬の間は雪山に入り浸るわたしにとって、この防寒性は十二分に活躍してくれるはずです。

〈BARRY〉は、ダウンジャケットなのにフォルムがキレイで、野暮ったくないですよね。実際に袖を通してみると、よくできたフォルムだと感じます。あんまりモコモコとした感じもなくて、スマートに見えます。あとはすごく襟高なデザインも他にはないスタイルでいいですよね。これなら、雪山の街でも都市でもどちらでも着られます。


Interviewee Natsuko Kaneko
Photography Mai Kise
Edit&Text Takafumi Yano

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