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スタイリスト金子夏子さん連載企画 Vol.5

経験できないこと、見たことのない景色を求めて旅に出る

公私ともに旅をするスタイリスト金子夏子さんがナビゲートするインタビューシリーズ第五回は、渋谷区西原のコーヒーショップ〈PADDLERS COFFEE〉の松島大介さん。ポートランドでの生活、バックパッカーとして巡った中南米や東南アジア。いまの松島さんをかたちづくる“移動の遍歴”と、旅に求めることについてお話をうかがいました。

気がつくといつも旅先にいる

松島大介(以下、DM)_ 連載1回目のエベレスト街道の話を読みましたよ。
金子夏子(以下、NK)_ ありがとう(笑)。あのときが初めてのロングハイクだったんです。日数をかけて旅することもなかなかないし、しかもひたすら歩くだけ。でも、こんなにも楽しいのかと思いました。
DM_ どれくらい行っていたんですか?
NK_ 20日くらいですね。ガイドさんを含めて、10人ちょっとくらいのツアーでした。
DM_ 結構、大所帯ですね。
NK_ そう。だけど日本のツアーと違って、今日の行程はここからここまで、目的地までは自由に自分のペースで歩いて来てねって感じだったし、友だちと一緒に行ったんだけど、ペースが違うから割とひとりで、時々一緒に歩いたりしていました。
DM_ 山行って誰かと行っても、結局、対自分ですからね。
NK_ 各々のペースで歩くのが結構心地よくて、考えながら歩くこともあれば、景色だけ見て歩くこともあって、自分と向き合うには本当にいいなって。

松島大介|Daisuke Matsushima
PADDLERS COFFEE代表。1985年東京都生まれ。高校・大学時代をポートランドで過ごす。2015年に〈PADDLERS COFFEE〉を開業し、店内のギャラリースペースで定期的にイベントを主催する。21年から中野のカフェ〈LOU〉を経営。徳島県の木工作家・小石宗介氏と共同でウッドプロダクトのブランド「TOO WOOD」を設立するなど、活動の幅は多岐にわたる。

DM_ ぼくも、いままさに山登りがいちばんのストレス発散になっています。スマホは持っていきますが、常にエアプレーンモード(笑)。山に入って、ただひたすら歩いています。考える時間もあるし。
NK_ もう一回ぐらい長く歩く旅をやってみたいですね。アラスカとか北欧のトレイルとかで。

コーヒーショップの“ヴァイブス”

DM_ いいですね。ぼくも今年は1カ月ぐらい休んで旅をしようと考えています。PADDLERS COFFEEを始めるまでは、深夜のコンビニとテレアポで仕事をしてお金が貯まったら、それが尽きるまで中南米とか東南アジアを旅して、また仕事してという旅が中心の暮らしでした。辞めるのに躊躇しなくてよくて、時給1500円ぐらいというのが仕事探しの条件でした(笑)。
NK_ その話を全然知らなかった。勝手にヨーロッパよりも米国、自然よりも街にいるイメージをもっていました。
DM_ 意外と逆で、あまり都会には行かないんです(笑)。どちらかと言うと田舎。ずっと通っているのはチェンマイで、ひとりで旅していたときは中南米。1年くらいかけてメキシコからグアテマラ、キューバ、ボリビア、ブラジルと南下していきました。時間もあったし、コーヒーバイヤーの人に便乗してヒッチハイクでコーヒー農園とかを訪ねたりして。
NK_ へぇ、そうだったんだ。そのときにコーヒーに興味をもったんですか?
DM_ というわけでもないんですよ。高校から7年間、米国のポートランドに住んでいた影響ですかね。
NK_ 高校から米国だったんだ。
DM_ そう。旅をしていたのは中南米とか東南アジアだけど、コーヒーの研究をしに行っていたわけではないです。若いときにしか行けない国ってあるじゃないですか? 気持ち的に。
NK_ ある、ある、ある(笑)。
DM_ それで中南米とかは若いときに行こうと思って、25〜26歳の1年間、バックパックを背負って巡っていました。いまからグアテマラに1カ月行こうと思っても難しいじゃないですか。
NK_ そこね。確かに。
DM_ コーヒーは、おいしいからというより、コーヒーショップが好きだったんです。コーヒーショップって、海外に行くと絶対に立ち寄るじゃないですか。
NK_ 行きますね。
DM_ コーヒーショップの“ヴァイブス”というか、家具とか音楽とか働いてる人の“雰囲気”が好きなんです。とりわけポートランドの〈Sweedeedee〉というカフェに行ったときは衝撃的でした。このヴァイブス……すごいって。PADDLERS COFFEEをつくるときも、内装をお願いしたMOBLEY WORKSの鰤岡さんにこの空気感を伝えたくて連れて行ったほどです。
NK_ 最近、長い旅をしていないんですよね。

移動することで得られる新しいもの

DM_ 長い旅になると、やることがなくなって飽きるタイミングがあるじゃないですか。そこから何をするかで旅の在りかたが変わるのかも。旅の仕方とか持っていくものとか。いまだったらもっとこうしたのにとかはあるけど、当時はとにかくお金がなかったから(苦笑)。
NK_ いまであればいろいろ調べられるし、これが必要だとか、これを持って行くと便利だとかわかるけど、若いときならではの旅の仕方もあったと思います。
DM_ 当時はSNSがこんなに流行る前で、スマートフォンに依存することもなかったし。キューバなんて電波すら入らなくて、1カ月スマートフォンのない生活でした。
NK_ スマートフォンがないと何もできなくなっているのが寂しいですよね。
DM_ 本当にそう。どんな場所でも移動すると新しいものを得られるのが、旅の醍醐味なはず。この前も、ニューヨークに5日間行っただけでも、得るものはめちゃくちゃありました。
NK_ 何日間でも違うところにいると、全然違う感覚になりますよね。わたしは年齢が上がってきて、次にどういう旅をしようかなと思っています。
DM_ ロングトレイル、いいじゃないですか。

キューバという唯一無二の体験

NK_ もう一回くらいやりたいです。松島さんはどんな旅をしてみたいですか?
DM_ ぼくはバックパッカーをやっていなかったら、いまとはまったく違う人生になっていたと思うんです。それくらい貴重な体験でした。だから1カ月でもいいから、バックパッカーをやりたいです。カルチャーショックを受けたい。楽する旅ではなくて、追い込みたい(笑)。例えばミャンマーのすごい田舎とかにノープランで行きたいです。そういう旅がしたい。
NK_ 経験できないことをしてみたいですよね。
DM_ みんな行ったことないところに行きたい。見たことのない景色が見たい。いま話しながら、もう一回キューバに行きたいと思いました。

〈松島大介さんの必需品〉
スリッパ、モバイル三脚、タンブラー、ウエストバッグ、ドラゴンフライジャケット、カメラ、ノイズキャンセリングヘッドフォン。「ドラゴンフライ(右端)は、99gの超軽量なのにこれ一枚でとりあえず寒さはしのげます。REVOMAXのタンブラーは物価が高い旅先だとお湯をもらってティーバッグを入れています。ツイストさせずにワンタッチで開けられる優れものです。ウエストバックは知人のブランドがパタゴニアの〈ランバーコンプレッション〉をモチーフにダイニーマでつくったものです」

NK_ キューバ!? どんなところが魅力的だったんですか?
DM_ 映画のセットに自分が入っている感覚になるんですよ。ぼくが行ったのは、まだフィデル・カストロが議長の時代でした。要はウエスタンのカルチャーが全然入ってきていない時代です。キューバって行ったことはあります?
NK_ ないですね。
DM_ タクシーは大体50年代の米国とかロシアのクルマで、夜10時になると街の灯が全部消えて、すぐ目の前の距離すら見えないくらい街は暗いんですよ。で、キューバ人が道端にずらっと座っていて怖いんですけど、めちゃくちゃ安全なんですよ。

ヒッチハイクで米国の50年代のクルマを乗り継いで適当に回って、みたいな旅をやっていたんですけど、とにかく楽しかった。別に何かがあるわけではないんですけどね。観光的な見どころもないし、ごはんが特別おいしいわけでもないし(笑)。

キューバの宿って、扉に水色の錨のマークがあるローカルの家と交渉して泊まるんですよ。ホテルに泊まらずにキューバ人の家を転々としながら滞在するんです。政府が管理しているので安全だし。そういう旅もいいですね。

NK_ 人にもよると思うけど、歳を重ねると冒険心が薄くなっていくというか……ね。怖さも出てきちゃう。「ここに行って大丈夫かな」とか、スマートフォンで前情報を得られちゃうじゃないですか。

昔は「行きたい!」って気持ちだけで進んで、なんとかなったし、できなかったら工夫して進むじゃないですか。その気持ちがまだあるうちに、もう一回長い旅をしたいです。

DM_ 25歳のときに感じたことと40歳のいま感じることも、お金の使い方もまるで違うと思うんです。その当時、キューバ革命のときにチェ・ゲバラとかが拠点にしたサンティアゴ・デ・クーバという都市まで、首都のハバナからヒッチハイクで行ったんですよ。何も躊躇もなく。それをもう一度やってみたい。

暮らしと旅、溶け合う境界

NK_ いつか海外の都市に短い期間でもいいから住んでみるのも楽しいかもなぁ。旅で行くのと住むのとでは違うじゃないですか。
DM_ いいですね。米国の友だちの家に泊まっていると、玄関の鍵を自分で開けたりしているうちに住んでいる感覚になって、テンションが上がります。
NK_ ね。で、考えることなくブラブラするっていう。朝起きてとりあえず散歩に行く(笑)。
DM_ 旅行って、次の日はこれをやってって計画になってしまってつまらないですよね。
NK_ 今日の予定は、起きてから決める。電車に乗ってどこか行ってみようとか。住むか、ロングトレイルに行くか。どっちかはやってみたいな。
DM_ 最高じゃないですか。旅に行きたくなりました。
NK_ そんな会話をしていると、またすぐ旅に行きたくなってしまうんですよ。今回、旅に着ていきたいダウンを選んでもらいましたが、旅にダウンは持っていきますか?
DM_ 持って行きますよ。
NK_ いま着ているのを選んだポイントは?
DM_ ぼくはブランドロゴがドーンって出ているのって選ばないけど、〈SOLACE〉はすごくシンプルですね。
NK_ アウトドアウェアって、意外と主張するものが多いですよね。
DM_ ブランドをレペゼンしてるみたいで(苦笑)。〈SOLACE〉は襟がないから、重ね着がしやすいのと、胸のポケットにスマートフォンとかが入れられて汎用性が高いのがいいですね。
NK_ これ、ダブルジップなんだ。
DM_ 意外とこの丈感でダブルジップってない気がします。旅行のときは大抵ウエストバッグを巻いているから、ダブルジップはマストなんですよ。あと、ぼくは自転車にも乗るし、クルマも運転するから、丈が短いほうが重宝するんですよね。
NK_ 仕事をしているときもストレスがなさそうに身体を動かしていましたね。
DM_ 動きやすいから、今日は朝からずっとこれを着ているんですよ。

Interviewer Natsuko Kaneko
Interviewee Daisuke Matsushima
Photography Taro Hirano
Edit&Text Takafumi Yano

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